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COLUMN / 費用・賠償

探偵費用は、慰謝料から
回収できるか
——裁判例が示す「認められる条件」

2026年5月22日 三郷探偵事務所 費用・賠償

「探偵に頼んだ費用は、慰謝料から返ってくるの?」——依頼を検討する方から最もよく聞かれる質問のひとつです。

結論から言えば、条件を満たせば損害の一部として認められますが、全額回収は難しく、認められないケースも相当数あります。

このコラムでは、探偵費用の回収に関する法的根拠と、裁判所が「認める・認めない」を判断してきた具体的な基準を、判例をもとに正確にお伝えします。

1. 探偵費用が「損害」になる法的根拠

不貞行為は民法第709条(不法行為)に該当します。不貞を犯した配偶者と、その相手方は、被害配偶者の「婚姻共同生活の平和の維持という法律上保護される利益」(最高裁平成8年3月26日判決)を侵害したとして、損害賠償責任を負います。

民法第709条(不法行為による損害賠償)

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

では、探偵費用はこの「損害」に含まれるのか。これを判断する枠組みが「相当因果関係」の法理です。民法第416条が不法行為にも類推適用され、「不貞行為から通常生ずべき損害(通常損害)」または「特別の事情による損害で加害者が予見し得た損害」の範囲でのみ、賠償が認められます。

裁判所が問う「相当因果関係」の核心

「配偶者の不貞が疑われた場合に、調査会社を利用することが一般的・通常の行動といえるか」——この問いへの答えが、認否を大きく左右します。

裁判所の判断は一律ではなく、事案の状況によって結論が分かれています。以下に、認められた事例と認められなかった事例を見ていきます。

2. 認められた判例——裁判所が重視した3つの条件

探偵費用が損害として認容された判例を分析すると、裁判所が評価した共通点が見えてきます。

裁判所・年月日 請求額 認容額
東京地裁 平成23年12月28日 約157万円 100万円
東京地裁 平成28年2月16日 37万2,000円 37万2,000円(全額)
東京地裁 平成28年11月30日 77万7,600円 77万7,600円(全額)
東京地裁 令和5年9月11日 228万円 100万円

認容された事案に共通する条件は、主に以下の3点です。

相手が不貞を否定しており、調査なくして立証できなかった

探偵報告書が「最も重要な証拠」として機能した場合、その取得費用は立証に必要なコストとして認められやすくなります。

調査によって決定的な証拠が実際に得られた

有力・決定的な証拠の取得があることが、「調査の必要性・有用性」の立証につながります。証拠が取れなかった場合は、この要件を満たしません。

費用の金額が調査期間・不貞期間に対して合理的

2か月の不貞行為に対して7か月分の調査費用を請求した事案では大幅減額されています。「必要な範囲」を超えた部分は認められません。

注意

認容されても全額ではなく一部にとどまるケースがほとんどです。裁判所は「相当な範囲」に限って損害と認めるため、請求額の50〜30%程度に削減された例も多くあります。

3. 認められなかった判例——令和6年の重要判決

探偵費用が損害として認められなかった事案も、認められた事案と同じかそれ以上に存在します。特に注目すべきは令和6年の東京高裁判決です。

重要判例

東京高裁 令和6年1月17日判決

一審(東京地裁令和5年2月22日)が約60万円を認容した判断を、高裁が逆転否定した事案。

高裁の判断①:「配偶者に不貞の疑いが生じた場合に、直ちに調査会社を利用することが一般的とは認められない」→ 通常損害性を否定

高裁の判断②:「配偶者の行動変化から不貞を疑える状況があり、調査を利用しなくても不貞の事実を知ることができたと認められる」→ 必要性・予見可能性も否定

この判決以降、下級審でも否定例が増加する傾向が見られます。認められなかった主なパターンをまとめます。

否定された理由 代表的な裁判例
依頼前にすでに不貞を確信していた 東京地裁令和4年5月17日
調査が「必要不可欠」でなかった 東京地裁令和4年6月1日
SNS・メール等の他の証拠が存在していた 東京地裁令和5年10月31日
相手方がすでに不貞を認めていた 東京地裁平成22年2月23日
費用が著しく高額で調査期間も過大 東京地裁令和4年6月9日(383万→40万に大幅減額)

現実的な見通し

最新の裁判例の傾向を踏まえると、探偵費用の全額回収は難しいというのが正直なところです。一部認容されても10〜30万円程度にとどまるケースが多く、否定されるリスクも相当あります。「回収できるかどうか」より「証拠を確実に取得できるかどうか」を優先して考えることが重要です。

4. 弁護士費用も請求できる(最高裁・昭和44年判決)

探偵費用とは別に、弁護士費用も不法行為の損害として一部請求できます。根拠となるのは最高裁判所の判決です。

最高裁判所 昭和44年2月27日判決

「訴訟が専門化・技術化していることからすれば、一般人が単独で十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近い。事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の弁護士費用は、不法行為と相当因果関係に立つ損害である。」

この判決を根拠に、不法行為訴訟では実務上、認容額(弁護士費用を除く合計)の約10%が弁護士費用として損害に算入される運用が定着しています。

認容額200万円の場合

弁護士費用として約20万円が上乗せされる

注意点

実際の弁護士報酬(認容額の20〜30%程度)との差額は自己負担になる

※ 弁護士費用の損害算入は不法行為に基づく請求の場合に認められるものです。債務不履行に基づく請求では原則認められません(最高裁平成24年2月24日判決)。

5. 回収できる可能性を高める3つのポイント

裁判例の傾向を踏まえると、探偵費用の回収可能性を高めるために依頼者側が意識すべき点が見えてきます。

01

探偵業法に基づく届出業者に依頼する

探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号)に基づき、都道府県公安委員会へ届け出た業者だけが「探偵業者」を名乗れます。届出番号のない業者への依頼は、費用の損害賠償請求において適法性が問われ、証拠能力にも影響します。

02

契約書・領収書を必ず保存する

探偵費用を訴訟で損害として主張するには、何を・いつから・いくらで依頼したかを証明する契約書・費用明細・領収書が必須です。探偵業法は業者に書面交付を義務付けているため、書面を発行しない業者は法令違反の疑いがあります。

03

「証拠を取るための依頼」である必要性を明確にしておく

裁判所が探偵費用の損害性を認めやすいのは「他に立証手段がなかった」ケースです。SNSやLINEの証拠がすでにある状態で高額の調査費用をかけた場合、「必要性がなかった」と判断されるリスクがあります。依頼の段階で弁護士に相談し、証拠収集の方針を決めておくことが重要です。

まとめ

  • 探偵費用は民法709条・相当因果関係の枠組みで損害と認められうるが、全額回収は難しい
  • 認められる条件は「相手が不貞を否定」「他に証拠なし」「調査で決定的証拠を取得」「費用が合理的」の4点
  • 令和6年の東京高裁判決以降、否定例が増加傾向にあり、認容額は10〜30万円程度にとどまるケースが多い
  • 弁護士費用は認容額の約10%が損害に算入される(最高裁昭和44年判決)
  • 回収を見越すより「確実な証拠を取得する」ことが、最終的な回収額を最大化する

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